第三話 殺意を具現化する者

12/12
前へ
/165ページ
次へ
「やあぁぁぁぁぁっ!」  凛華はなりふり構わず刀を振るった。  静止していると死の足音が近づいてくるように感じたからだ。  しかし、虚しい一撃は氷の籠手に傷一つつけること叶わず、大刀で反撃を受ける。  凛華は紙一重で避けるが、大剣の刀身をかたどった氷刃が統二の左腕に生まれ、間髪入れず襲い掛かった。  双つの凶器による猛攻と、氷結による鉄壁の盾。  どうあがこうとも打開できぬ現状。  凛華にじわりと冥府の魔物が迫る。 「うっ……」  とうとう大刀が凛華の足と腕を浅く切り裂いた。 「んなっ!?」  凛華が驚愕に目を見開く。  飛び散った血が、瞬時に凍ったのだ。さらに、傷口も凍てついていく―― 「君はもう終わりだ。私の『結晶華』は傷口から凍結させ、やがて体内まで氷漬けにする」  統二が硬い表情で無情な事実を告げる。もうその瞳には、憐憫も感傷もない。ただの無だった。  凛華に残された最善の道は凍死だというのか。  凛華は死の間際になって、溢れる未練に震えた。 「さらばだ凛華。お父上によろしく伝えてくれ」  ひざまづいた凛華が顔を上げると、統二が無表情で見下ろしていた。道場の中央で跪く少女になすすべはない。  そしてついに、薄く透明な化粧をした漆黒の刃が、凛華の頭上に迫る。 (誰か……誰かっ、助けて!)  最期、凛華の脳裏にある少女漫画のキャラクターの姿が思い浮かぶ。普段は冷徹で、しかしヒロインのピンチには颯爽と駆けつける熱い少年の姿が――
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加