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「やあぁぁぁぁぁっ!」
凛華はなりふり構わず刀を振るった。
静止していると死の足音が近づいてくるように感じたからだ。
しかし、虚しい一撃は氷の籠手に傷一つつけること叶わず、大刀で反撃を受ける。
凛華は紙一重で避けるが、大剣の刀身をかたどった氷刃が統二の左腕に生まれ、間髪入れず襲い掛かった。
双つの凶器による猛攻と、氷結による鉄壁の盾。
どうあがこうとも打開できぬ現状。
凛華にじわりと冥府の魔物が迫る。
「うっ……」
とうとう大刀が凛華の足と腕を浅く切り裂いた。
「んなっ!?」
凛華が驚愕に目を見開く。
飛び散った血が、瞬時に凍ったのだ。さらに、傷口も凍てついていく――
「君はもう終わりだ。私の『結晶華』は傷口から凍結させ、やがて体内まで氷漬けにする」
統二が硬い表情で無情な事実を告げる。もうその瞳には、憐憫も感傷もない。ただの無だった。
凛華に残された最善の道は凍死だというのか。
凛華は死の間際になって、溢れる未練に震えた。
「さらばだ凛華。お父上によろしく伝えてくれ」
ひざまづいた凛華が顔を上げると、統二が無表情で見下ろしていた。道場の中央で跪く少女になすすべはない。
そしてついに、薄く透明な化粧をした漆黒の刃が、凛華の頭上に迫る。
(誰か……誰かっ、助けて!)
最期、凛華の脳裏にある少女漫画のキャラクターの姿が思い浮かぶ。普段は冷徹で、しかしヒロインのピンチには颯爽と駆けつける熱い少年の姿が――
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