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綺麗に掃除された床に、ポタポタと血が垂れている。それは、凍っていない真っ赤な液体のままだった。
「『殺衣』、だと?」
目を見開いた統二は胸元を左手で押さえている。その胸からは血がしたたり落ちていた。見事に氷ごと切り裂かれている。
「……浅かったか」
仮面をバックラーとして統二の視界を覆うように投げつけ、統二がそれを払っている間に急所を斬る。
風刃の作戦は完璧だった。唯一の誤算は、統二が下がって仮面を避けたことだ。おかげで、麻痺しかけていた風刃の足では十分に距離を詰められず、致命傷を負わせるには至らなかった。
統二は背後の風刃へ振り向くと、その素顔を確認し眉を逆立てた。
「お前はっ!」
「そういえば、名乗りがまだだったな。傭団連序列第十位、マーセナリー・特殊派遣部 黒瀬風刃だ」
風刃は抑揚のない声で名乗ると、ナイフで傷口の氷を切り払った。
殺気によって作られた結晶は、いとも簡単に砕け散る。
それを見た統二は全てを悟った。優勢な戦況など、ただの一瞬もなかったのだと。
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