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風刃が凛華へと歩み寄り、傷口の氷を殺衣ごと払う。それが風刃の能力だった。殺気そのものを消し去ることにより、体内の凍結もなくなった。
「ありがとう、ございます」
しばらく呆けていた凛華だったが、ようやく緊張が解けたのか目に涙を浮かべた。
「まさか、あなたに助けてもらえるなんて思ってもみませんでした。これじゃあ、あなたは本当に……」
凛華は頬を赤らめ、心なしか嬉しそうにはにかんでいる。その瞳には、なにかを期待するような輝きが灯っていた。
しかし、風刃は目を合わせることなく立ち上がると、凛華へ背を向け入口へと足を傾けた。そして、無情な現実を突き付ける。
「『決まっていたこと』、だからな」
「決まっていた?」
凛華は不思議そうに首をかしげた。
「俺は会社の意向でお前を守った。それだけだ」
「それはどういう……」
凛華は、風刃の冷たい声によって次第に表情を曇らせていった。
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