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凛華は再び顔を上げる。強い想いを瞳に宿して。
「それでもいいです! また今まで通りにあなたと話せれば、それだけで……」
しかし、それは叶わない望みだった。
風刃は再び寒露国に戻り、業務遂行の報告をしなければならない。そしてこの業界を去るのだ。
「無理だ。長檻統二はアーミーの常務取締役でもあり多忙な身。すぐに米進国へ戻り、本件の報告書を提出するだろう。そうなれば再び襲われる可能性は低い。数日の間、護衛は続くがそれは俺ではない。これでお別れだ」
風刃は別れを告げると背を向ける。
凛華は身をよじり声を震わせながら必死に叫ぶ。
「待って! 待ってください! 私を一人にしないで……」
凛華は上手く動けない。先ほどまで体が氷に支配されていたのだ。無理もない。
風刃はもう応えることなく道場から去っていった。
「俺が誰かと親しくなるなど、もう二度と……」
風刃は感情を胸の奥に押し込めたまま、再び闇夜に溶け込んだ。
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