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第二話 忍び寄る殺意
冷気と活気が複雑に入り混じる繁華街の夜。
風刃は駅の裏にあるだだっ広い公園の隅でベンチに座り込んでいた。公園の中央辺りは大勢の男女が行き来し、客引きやナンパも活発に行われていた。そんな光景とは対照的に、風刃の座るベンチ周辺だけ街路灯が切れて人気がない。
風刃は、やや前かがみに腰掛けながら往来を眺めていた。やがて背後で冷気の揺らぎを感じると口を開く。
「……対象の様子はどうだ?」
「特に問題ありません。周囲にも不穏な影はなく、すぐに襲われるということはないでしょう」
虚空の闇より風刃に応えたのは、『影月綾』だった。今回は風刃の業務遂行のため、調査派遣部からの協力者として出張してきている。
彼らの母体『マーセナリー』の作業体制はシンプルだ。まずは心理戦略営業部の社員が営業をかけ、顧客から襲撃や護衛などの依頼を受ける。次にその業務の想定難度によって的確な人数の調査派遣部員と特殊派遣部員が派遣される。そして、調査派遣部が対象の調査や監視を徹底的に行い、その情報を元に戦闘員である特殊派遣部の傭兵が業務を遂行するという流れだ。
本来、今回の難度はべらぼうに高いはずだが、派遣されたのは風刃と綾の二人だけ。それでも風刃は、不安など微塵も感じていなかった。社長も彼らの実力も見込んでのことだろう。
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