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第三話 殺意を具現化する者
未だ冷気が闇を支配する夜。
風刃が道場を去った後、いつも通り道場の掃除を終えた凛華は場内の最奥、仰々しく置かれた日本刀の前に正座していた。上は白、下は黒の剣道着を着て、長い黒髪を後ろで束ねている。
静かに瞳を閉じ、微動だにしていない。精神統一をしているようにも見えるが、過去に囚われているだけだった。
五年たった今でも、目を閉じるたびに親友の笑顔が思い浮かぶのだ。
「朱莉ちゃん……」
亡くなった友の名を重苦しく吐き出すように呟くと、静かに目を開け立ち上がった。
なにも考えられず、ただ道場での想い出に浸っていると、やがて静寂は破られる――
「――大きくなったな、凛華」
「……え?」
静寂を破ったのは低く優しげな声だった。凛華は、懐かしさを感じると同時に強烈な違和感を感じ、慌てて背後を振り向く。
道場の入り口に立っていたのは、五年前に道場を破門されたはずの朱莉の父、『長檻統二』だったのだ。彼は白い手袋をはめ紺のロングコートを羽織り長い刀を帯刀していた。まるで手練れの剣士のような風貌だ。四十代前半だというのに、髪は真っ白に染まり顔には心労によるものであろう深い皺が刻まれている。
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