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第五話 捨てられぬ過去
風刃がマーセナリーを辞職してから三日がたった。風刃はまだ日ノ國にいる。想定よりも早く凛華の件は片付いたが、次になにをすべきか考えあぐねていたのだ。いまだにその答えが出ないでいる。この街にいては凛華と再び遭遇する可能性もあったが、そのときは知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりだった。
「…………」
夜の街をただ無心で歩く風刃。さすがは都会、辛気臭そうに彷徨う風刃をあざ笑うかのように賑やかだった。周囲に広がる繁華街は妖しい輝きを放ち、そこら中で学生の集団や酔っ払いの社会人たちが騒いでいる。また、客引きやナンパなども存外積極的だ。
だが絢爛たる輝きの中にあっても、黒瀬風刃という闇は染まらない。
波打っている人込みに溶け込み、しばらく歩いていると人気の少ない路地裏に辿り着いた。この道が風刃の住む格安ホテルへの近道となっている。薄暗い道だが、風刃は勝手知ったるという風に悠々と足を進めていく。
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