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「あのお……言ってることがまったくもってわからないんですが……」
「だからぁ、かぶりつきたくて仕方ないのに、かぶりつかせてくれないのが唯一、あなたの嫌いなところなの!」
ますます訝しげに眉間に皺を寄せ、おそるおそる尋ねる彼にわたしはとうとう本質に迫る直接的なその理由を答えた。
「か、かぶりつかせて……くれない?」
「そう! いつもそうだったでしょう? こんなに大好きなのに甘嚙みしようとすると逃げるし、キスの時だって、舌を噛もうとすると嫌がってキスしてくれなくなるしさ……」
オウム返しに再び訊いてくる彼に、わたしはこれまでのことを思い出しながら口を尖らせ、堰を切ったように愚痴を零し始める。
「え、いや、だって、あれは甘嚙みってレベルじゃないでしょう? ものすごく痛いし、見れば歯形がくっきりついてるし、キスだって舌噛み切られそうな勢いだったよ!?」
「だってそうしなきゃ血が出ないじゃん! 血が出なきゃ舐められないし、本当ならそのまま肉を喰いちぎりたいところなんだからね!」
言い訳を口にする彼に、わたしも思わず感情的になって声を荒くする。
「え? ……え、え、ちょっと何言っちゃってるの? 普通に聞いたらなんか言ってること怖いよ? そのままの意味で取ったらとってもサイコだよ?」
「そのままも何もそのままの意味だよ! わたしはあなたのことが食べたいのにぜんぜん食べさせてくれないじゃん! そこが一つだけ…だけど、どうしても我慢できないあなたの嫌いなとこなの!」
「え、ええええぇぇぇ~っ!」
わたしの言葉を理解できず、焦り出す彼にストレートな物言いでそう告白すると、彼は素っ頓狂な驚きの声を閑静な喫茶店内の隅々にまで響かせた。
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