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8.【エピローグ】
穏やかな陽の光が、王立教会を照らしていた。 ヘリオスとアイナの結婚式が営まれたのは、ベルドの事件から半年が経った頃だった。
新婦の前で愛を誓い合う二人を、大勢の参列者が見守っていた。ルビー、メルティナ、グラニス、ゼロア、そして、カマル。他にも、エナや竜騎士団員や王宮で働くものなどが集まった。
国を救った英雄の結婚式ということで、グラニスとメルティナのはからいにより、国を上げた一大イベントとなったためだ。
「では、誓いのキスを……。」
神父の言葉を合図に、向かい合った二人が口づけを交わすと、拍手と歓声が上がる。それは本当に神秘的であり、二人はもちろん、インディヴァニアの安泰を予感させるものでもあった。
カマルはこれまでのことを思い出しながら、二人の様子を微笑ましく見守っていた。
(おめでとう……。二人とも……。)
花びらと鳩が舞う中、晴れて夫婦と鳴った二人が教会から姿を現し、外で待っていた大勢の人々からも祝福を受ける。
「そーれっ!」
アイナの投げたブーケは群がる若い女性たちの手に何度か弾かれ、最後はルビーの手元に落ち着いた。
一瞬困ったような表情を浮かべるルビーだったが、笑顔でブーケを掲げてヘリオスとアイナにアピールした。
「ライガーの牙が二対、金鉱石が百グラム、乾燥号泣茸が十個。」
いつものように頼まれたアイテムをカウンターに並べていくエナと、それを見守るカマル。
「あと、ゴールデンアップルが三つね。」
「あれ? それ頼んでないよ。」
「昇進祝いよ。魔法研に異動になったんでしょ?」
「耳が早いな。誰から?」
「ヘリオスよ。自分が入ったみたいに自慢してたわ。」
「あいつ……。」
と、はにかむカマル。
「おめでと。いろいろ変わるみたいね。この国も。」
「うん、他の国と関係も、これから増えてくみたいだ。忙しくなりそうだよ。」
「……そう。頑張ってね。」
エナの表情が少しだけ曇った。
「ありがと。なんとかやってみるよ。」
いつもと同じように荷物をまとめて、店を出ようと出入り口に向かうカマルだったが、何かを思い出したように立ち止まる。
「そうだエナ。明日夜、空いてるかな?」
思いもよらない質問に驚くエナ。
「え、明日? 明日、明日は、えっと、空いてる。うん、夕方には店終わるから。」
「そしたら、夕食でもどう?」
「えっ? ゆう、しょく……?」
「浜通りに最近新しい店ができたらしいんだ。だから二人でどうかな?」
「わ、分かった、空けておく。うん……。」
「よかった。それじゃまた明日来るから。」
手を振り、笑顔で店を出ていくカマル。
一体何が起こったのか事態が飲めないまま手を振り返すエナ。
「え? 二人? いま二人って言った!? いや言った! ふ、ふふふ…ふた、二人ってー!!」
顔から火を出し、フラフラしながら気を失い倒れるエナ。
店を出たカマルを、眩しい太陽の光が迎えてくれた。思わず手でその眩しさを遮るカマル。
すると、その日差しを遮る影があった。
赤と青のドラゴンを先頭にした編隊が飛び去っていく。
その様子を微笑ましく見送ってから、カマルは王宮へと歩き出した。インディヴァニアの新しい日が始まる。
終
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