プロローグ

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プロローグ

 僕、前田(まえだ)勇樹(ゆうき)は高校の授業が終わった放課後、いつも通ってるピアノ教室に向かう。  午後四時からのレッスンを受けるため、教室の扉を開けると誰かがピアノを弾いている。 「あれ? 先生じゃない、誰だろう・・・・・・」  師事してる先生の歳は五十台後半なので、疑問に思う。  長い黒髪の後ろ姿、細身の体で背筋を正して椅子に座ってる女性。  漆黒に輝くグランドピアノから奏でられる曲は  ショパン エチュード イ短調 作品25 11 木枯らし  細くて、しなやかな右手の指先に目を奪われる。  かと思えば、左手から溢れ出るメロディーは超絶技巧と感情豊かな旋律で輝いてた。  乾いた空気の教室内に響く音色が僕の耳を捕らえて離さない。  その場に立ったまま、口を(つぐ)み思わず聞き入ってしまう。  後ろ姿を無言で見つめていると、急に演奏が止まった。  ゆっくりと椅子から立ち上がった女性は振り返り、長い髪の毛先を右手で後ろに払う。  潤んだ瞳で見つめてくるけど、僕は体の動きを硬直させていた。  歳が二十台後半ぐらいの凄く美人な女性、でも、笑顔はない。  疲れてるというか、体の具合が悪そうな印象を受ける。    でも、どこかで見たことが・・・・・・  ――思い出した  この教室の出身で、有名楽器メーカー専属のピアノデモンストレーター。  ゲストで呼ばれコンサート会場で演奏もするピアニストでもある。  以前、先生が音楽雑誌に紹介されていた女性を指差しながら、教え子だと自慢していたのを思い出した。  彼女の名前は 綾瀬(あやせ)美里(みさと)    東京を拠点に色々な地域へ出向いて演奏活動をしてるはずの彼女が  どうして、この教室に・・・・・・
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