革命のエチュード

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「これからレッスンの生徒さん、前田勇樹くんね。井隅先生から聞いてますよ」  やっと聞き取れる小さな声で、僕に話しかけてきた。  (のど)の調子が悪いのか、声が(かす)れてる。 「あっ、はい」  僕は恐縮して話しかけた。 「綾瀬美里さんですよね。この教室の出身だと先生から聞いてました」  顔の表情を変えず、平常心で僕に答えてくる。 「私のこと知ってるんだ」 「有名ですから・・・・・・ところで、井隅先生は?」 「そっか、何も聞いてないようね・・・・・・」  笑顔もなく、素っ気ない態度と小声で淡々と話してくる。 「井隅先生の母親、具合が悪くて緊急入院したらしいの。急遽、里帰りして面倒みることになったんだって。しばらく帰ってこないらしいわ」 「ええっ!」  コンクールを控えてる僕は動揺を隠せない。 「だいじょうぶよ、私が責任をもって指導しますから。といっても、ほぼ仕上がってるから面倒だけ見てほしいと頼まれてるのだけど・・・・・・」 「お願いします!」 「うん、いいわよ。ただね・・・・・・私の体調が優れてないの。迷惑かけちゃうかなって思ったんだけど、療養のため東京から実家のある浜松市に戻ってきたら、すごく時間ができちゃって・・・・・・それで代役を引き受けたの。井隅先生にはお世話になったしね」  こんな大事な時期に指導する先生が入れ替わるなんて、でも、やるしかない。  多忙なはずのピアノデモンストレーター、喉の調子と体の具合が良くないのか。  都会に比べたら静岡県は空気も()んでて、療養にはいいのかなと考える。  「前田くん以外の生徒さんは、お休みにしたらしいわ。だから連絡がなかったのね、きっと。教室も自由に使っていいみたい。鍵もあずかってるしね」  いつものように足を運んで、ピアノの練習をしなさいという先生からの圧力だ。  コンクールまでの短い期間だけど  僕は覚悟を決めて、綾瀬里美から指導を受ける事にした・・・・・・
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