革命のエチュード

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 僕は早速、グランドピアノを前にして椅子に腰を下ろし、背筋を正す。 「あっ・・・・・・」  すぐ横に椅子を置いて座る綾瀬さんとの距離が近くて、思わず声が出てしまう。  僕の左腕に綾瀬さんの右腕が軽く触れている。  長い髪の毛先を手で後ろに払うと、周囲がフローラルの香りに包まれた。  たぶんシャンプーかリンスだと思う。  これから演奏を始めようとする緊張ではないドキドキ感で、心臓が激しく鼓動している。 「予選の課題曲は?」 「J・Sバッハ平均律クラヴィーア曲集ですけど・・・・・・」  (かす)れた声で綾瀬さんは「どうぞ」と言ってきた。 「よっ、よろしくお願いします」  同級生の女子と体を近づけて会話をした事もないのに、いきなり有名ピアニストの年上女性と腕を接触させたまま演奏すれだなんて・・・・・・  僕は意を決して鍵盤に指先を乗せ、深呼吸した後で曲を弾き始めた。  ――その直後 「フォルテピアノ!」  綾瀬さんが、いきなり声を張り上げた。  喉を痛めたのか、軽くコホコホと咳払いをしてる。  今まで小声で話てたので、僕は驚いて指を止め演奏をやめてしまった・・・・・・
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