革命のエチュード

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「ごめんなさい、つい力が入ってしまって。でも、なにがあっても演奏を中断してはいけませんよ。その時点で失格、十分わかってると思うけど・・・・・・」 「すいません」 「基本的な事は言わないけど、楽譜を見ないでのノーミスは絶対条件。適切なテンポと音色の響きに気をつけて。あとは旋律と伴奏のバランス、センスのいい構成力よね、ほかの演奏者と差をつけるなら・・・・・・」 「わかりました」  無中になってピアノを弾き、練習を繰り返す。  何回も繰り返し演奏したバッハの曲は、目を閉じても鍵盤の上に指先を乗せれば弾けるぐらいにはなっていた。 「前田くん、今日はお開きにしましょうか」 「えっ、もうそんな時間・・・・・・」  時計を見ると、午後七時になろうとしていた。 「ごめんなさい、個人的に見てる子がいるの。性格が変わってるからどんな講師の先生とも気が合わなくて、コンクールの書類に師事してる先生の欄があるでしょう、そこに私の名前を書いてるんだけど・・・・・・たまには直接、見てあげようと思って。もうすぐ来るはずなんだけど・・・・・・」 「特定の先生が地元にいない?」  綾瀬さんはこの町の出身だけど、東京在住。  今はスマホで同時に画像を送りあう事もできるから、ピアノを弾いてる姿ぐらい見せれる。  でも、そんなやり取りぐらいでトップの成績を残せる同年代の人って・・・・・・  ――まさか 「鍵もかかってなかったし、チャイムを鳴らしても応答がなかったので、失礼したのだけど」  宣言するように教室へ入ってきたのは、すごく気の強そうな女子生徒。  制服がセーラーなので、僕が在籍してる高校の生徒じゃない。  長い髪をハーフアップツインに結んで、目つきも鋭くキツイ印象。  細身の体とスタイルの良さ、腕は長く繊細な指先はピアニストに向いてる。  凄く可愛らしい顔つきなのに目は充血して、まっ赤だ。  でも僕は、成長して大きくなったその少女に見覚えがあった・・・・・・
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