革命のエチュード

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 翌日から綾瀬さんは気を使って、相葉真琴と接触させないよう配慮してくれた。  僕はグランドピアノに向かい、課題曲を練習する日々。  適切なテンポ設定、拍子感、リズム感、拍節感に気をつけた。  すぐ横に座ってる綾瀬さん、僕の顔を見つめながら細かく注意してくる。  あくまでもコンクールで上位を目指すために指導してくれてると思うけど、見つめられてると恥ずかしい。 「ステージに上がった瞬間から審査は始まってるのよ、マナーや立ち姿、礼儀正しい挨拶。ピアノを演奏するだけじゃなく、総合的に審査員は見てるって、私も井隅先生に言われたな・・・・・・」  綾瀬さんは懐かしむように、潤んだ瞳で天井を見つめてる。  その日から一週間、毎日がコンクールに向けた練習。  だんだん、綾瀬さんの声の(かす)れが酷くなってくる。  軽く咳払いする事が多くなってきたので、病院へ行くよう促したけど、風邪じゃないから大丈夫と診療を受ける事はなかった。  僕が指導を受けた後、相葉の面倒も見てるはず。  喉の調子が悪いのに、何だか心配になってきた。  毎日一緒にいれば情もわいてきて、段々と綾瀬さんの事が異性として気になってきた。  ピアノを教わる講師から、大好きな大人の女性へと気持ちが変動していくのがわかる。  そして、翌日にコンクールの予選を控えた最後の練習日、綾瀬さんはほとんど声が出ず喋る事ができない状況。  心配なので再び病院へ行く事を進めたけど、彼女は首を縦に振らない。  コンサート会場のリハーサル室で行われたピアノ部門の予選会当日  僕は無事に通過して本選へ進める事が決まった。  でも、綾瀬さんは最後まで会場に姿を表す事はなかった・・・・・・
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