親愛なる、世界一嫌いな弟へ

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 お互いが好きにやっていても、二人の間にはいくつかのルールが決めてあった。  疲れていても、お互いのスケジュールが合わなくても、三日に一度は会話をもつこと。  髪は染めず短くし、髭は生やさないこと。  時間はきちんと守ること。  酒は早めに切り上げること。  髪と髭以外の、お互いのファッションセンスには、口を出さないこと。  これらの中でも、重要だと思っているルールはお互いに違う。  例えば、僕が特に大事にしているのは、ファッションセンスのことだ。  弟に言わせれば、僕は圧倒的に、ファッションセンスに乏しいらしい。  何と何を比べて圧倒的なのか、とつい問いただしたくなるが、僕からしてみれば、弟の台詞を、そっくりそのままお返ししたい気持ちだった。  ほとんど同時に生まれたのに、どうしてこうまで違うのかと聞きたくなるくらい、絶望的に二人のセンスはくいちがっていた。  これはひどい、それはない、あれなど同じ部屋にあるのも嫌だと言い合い、お互い疲れてきたころに、口を出すのはやめにしようと決まった。  反対に、弟が大事にしているのは、酒と髪と髭のルールだった。  服装は奇抜なくせに……というとセンスの話を蒸し返してしまいそうだけれど、弟はさっぱりした短髪で、髭も生やさないスタイルが好みらしかった。  それを兄の僕にまで強要するのはどうかと思うのだけれど、「兄貴の方がきちんと働いているんだから、きちんとした方がいい」との強い意志を感じる宣言に、根負けした形だ。  また、酒にしても、お互いそう弱いわけでもないのだから、ある程度は楽しめば良いと思うのだけれど、二十二時までには切り上げようと言ってきかなかった。  こんな風にして、僕たちの考えや趣向はまるで違う。  だからこそ、大事にする必要がある。  こうして一緒に暮らしている内は、なるべくお互いを尊重して、気分よく過ごしたい。  ずっと二人でいるわけにもいかないだろうから、なおのことだ。
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