親愛なる、世界一嫌いな弟へ

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「兄貴、大丈夫?」  ずいぶん早かったみたいだけど、との弟の声に目を覚ました僕は、愕然とした。  早かったみたいだけど、とは起きる時間ではなく、その逆だ。  いくら夜明け前に起きる生活リズムとはいえ、真昼間から眠りこけてしまうなんて。  疲れているのではないかと心配する弟の声に、そうかもしれないと応じながら、身を起こす。  時間が巻き戻されたような、自分がどこにいるのかわからないような、薄気味の悪い気持ちになる。  起こした身体は、想像していたよりずっと重たく、じわりと冷たいものが背をつたう。  熱もなければ、喉の痛みも感じない。頭痛があるわけでもない。  そうだ、きっと疲れていたのだ。  言い聞かせる思考とは裏腹に、どくどくと心臓が波を打つ。 「本当に大丈夫かよ? 俺、今日はバイトとか休んだ方がいい?」  気遣う弟に、大丈夫だからと精一杯に明るく振舞い、普段より少し薄めにコーヒーを淹れた。  その日は仕事を休むことにした。  短時間に集中して業務をこなすこのスタイルは、自分に合っている。  そう信じてやってきたものの、知らない内に負担がかかっていたのかもしれない。  幸い、スケジュールには余裕があったので、体調不良であるとの簡単な連絡でことは済んだ。  お気に入りの本を読み、好きなようにご飯を食べ、難しいことは考えずに過ごす。  午後になる頃にはすっかり普段の調子を取り戻し、風邪だとかの気配も感じなかった。  やはり疲れていたのだ。  ほっとして、ふうと息を吐き、何とはなしに、長めの瞬きのつもりで目を閉じた。 「兄貴、大丈夫?」  僕は薄闇の中に逆戻りしていて、気づかわしげな弟の声が、やけに遠くから聞こえてきた。  大丈夫とは到底思えなかったが、大丈夫だと返事をして、身を起こそうとした。  鉛のように重い身体は、とても自分のものとは思えない。  自分のせいではないと主張するように、心臓だけが声を大きくした。
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