親愛なる、世界一嫌いな弟へ

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「実は、好きな子ができたんだ」  目を覚ましたばかりの僕に、弟が話しかけてきた。  狭い部屋で、二人して寝転がって、天井を見つめている。  辺りはまだ暗く、日も出ていない。  目を覚ました僕と、眠る間際の弟との、一時の家族団らんというやつだ。  味気なく見えるかもしれないけれど、僕にとっては大事な時間。  弟の申し訳なさそうな告白に、へえ、とだけ答える。  何食わぬ様子にしてみても、僕の好奇心は伝わってしまっているに違いない。 「バイト先のさ」  その一言だけでわかった。  弟の話に出てくるバイト先の女の子は、何人かいるが、その中の一人がお気に入りであることは、なんとなく感じ取っていた。  早々に気づいた僕の様子に、「なんだ。お見通しか」と弟が悔しそうにする。  僕たちはほとんど同時に生まれてきた。  だから、お互いのことはほとんど知っているし、注意していれば、大抵のことはなんとなくわかる。  細心の注意を払って、隠そうとすれば、お互いに隠せないこともないだろうけれど。  二人で相談して、協力したほうが、はるかに物事が上手くいく。  それを僕たちは知っていた。  上手くいくといいな。まあまた今度、ゆっくり聞かせてくれ。そろそろ仕事の時間だ。  返事はない。自分から改まって切り出したくせに、眠ってしまったらしい。  どうやら、気付かれずにすんだようだと、胸をなでおろす。  好奇心といっしょに染み出した、もうひとつの感情。  言葉を当てはめるのならそれは、嫉妬だった。
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