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目立ったトラブルはなかったが、結局営業所へ着いたのは十三時半頃。急いで手を洗って紙袋を広げる。
可愛らしい紙のランチボックス。ちょっと俺には不似合い。
だけど嬉しく思ってしまうのは何故だろう。女性からの差し入れって感じがするからだろうか。
中身はカツサンド。桜乃のことだ、朝からカツを揚げて作ってくれたのだろう。手間がかかるのに、馬鹿だな。また緩む頬を慌てて引き締める。
あとはほうれん草入りの卵焼きに苺。苺なんて久しぶりに食べるかもしれない。
「何だ、彼女の手作り弁当か?」
ベテランの安岡さんが覗き込んできた。
「そんなんじゃ……ただのお節介なおばさんですよ」
「何だ、姉さん女房か」
「だから違うって」
だが安岡さんは俺の話を聞いちゃいない。楽しそうに食後の茶請け代わりにしていやがる。
「年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ、っていうからな」
「だから……」
もういい。
カツサンドを口に頬張る。パンはふわふわでカツも柔らかい。
美味い!
「あっ」
使い捨ておしぼりも入っていた。もしかして配達途中、車内で食べるとでも思ったのだろうか。
あれ? まだ何か入っている。取り出してみると桜乃の名刺だった。
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