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鉛筆の先で紙をコツコツと叩く。大きくなっていく点の塊。
バイトがないから一日漫画に集中できるはずだった。今日はネームを手直しして、担当の柿崎さんに見てもらおうと思っていたのに進まない。
「叶夢、できたよ~」
できたと言っても、美優が作ったわけじゃない。
紙袋にはテレビで度々紹介されている有名レストランのロゴ。無理を言ってテイクアウトしてきたのだろう。
「早く食べようよ。ここのフレンチ美味しいんだから」
「……分かった。その代わり食ったらすぐに帰れよ」
「ええ~何で!?」
面倒くさっ。
桜乃だったらこんな時……
安岡さんが言っていた、姉さん女房という言葉を思い出す。
桜乃は確かにいい奥さんになるだろうな。
その相手が俺ならいいのに……
「って俺は何を」
「突然どうしたの」
「何でもない」
火照る頬を見られたくなくて、俯いたまま並べられたフレンチを食べ始める。
嫁、妻、奥さん……いや、その前に恋人だろう。
恋人になったらキスして、それから……
「グホッ」
飯を喉に詰まらせ思いっきり咳き込む。
「ちょっと大丈夫!?」
「へ、平気だ」
胸を叩きながらペットボトルの炭酸水を飲み込んだ。
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