「母の 話」

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「里親に出そう。」 飢餓状態が続いたある日、夫が切り出しました。 妻は、疲労困憊していましたが、夫の言葉に耳を疑いました。 子どもを溺愛していた夫の言葉とは思えなかったのです。 「・・・どういうこと?」 「古い友人が、隣街で事業に成功した。奥さんと二人暮らしだが、子どもができないらしい。もちろん向こうとも話はついている。」 「そんな勝手に・・・」 「お前に言ったって、まともに会話はできない。子どもたちのことを考えれば、今の生活より、うんと幸せになれるんだ。」 「・・・だからって・・・どうして私たちの子を・・・あなただって、あの子たちのことを愛していたじゃない」 「愛しているからこそだ!」 夫は、いつになく大きな声を出しました。 寝床で脚の擦れる音が聞こえ、二人はしばし沈黙を保ちました。 今にも破れそうな壁に風が打ちつけられる音のみが響きます。 口を切ったのは、夫でした。 「分かってるよ。私だって、子どもたちと一緒にいたい。しかし、もう限界なんだ。子どもを育てることも、家族でいることも・・・」 夫は、先に床に就きました。 妻は、子どもたちが眠っている藁の寝床に近寄り、ひざまずきました。 二人は、無邪気な寝顔で、夢の中にいました。 『もう限界なんだ。子どもを育てることも、家族でいることも・・・』 それは、一家離散を意味していました。 「・・・ごめんね・・・お前たち・・・」 妻は、下の子の頭を撫でました。
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