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残念なことに、それは森の前で途切れてしまいました。
辺りは、日が落ちて、橙色の空が黒い布に侵食されかけていました。
「なぜ・・・ここに・・・」
妻は、森の中へ足を踏み入れました。
どこからか北風が吹き、妻の足首に噛みつきました。
妻は、ここで初めて自分が裸足であることに気が付きました。
生い茂る木々は揺れ、生きているかのように見下し、脅しました。
それでも妻は、探していました。
我が子と呼んでよいのか分からない、2人を。
妻は、いつか2人に歌った子守唄を思い出しました。
随分時が経ってしまったため、歌詞はほとんど忘れてしまいましたが、旋律を口ずさみました。
自分の心が、少しでも落ち着くように
自分と2人を、少しでも近づけるために
やがて大木の丸太に寄り掛かる人影を見つけました。
妻は、目を凝らして近づきました。
それは、紛れもなく、いつも藁の中で眠っていた2人でした。
妻は、息をつきました。
ちょうどその時、背後から気配を感じました。
人間ではありません。
空腹の獣が、闇夜に光る両目をこちらに向けています。
妻は、獣をじっと見つめました。
子どもたちを起こさないように、語りかけます。
「腹が減っているんだね。」
獣は、小さく唸りました。
「でもごめんね。今はこの子たちを渡すわけにはいかないんだよ。あんたに仲間はいるのかい?私にとって、この子たちは大切な仲間なんだよ。そりゃ、この子たちを助けてもらえるなら、私の身をよこしたって構わない。でもね、私もこの子たちを最後まで見届けてやりたいのさ。今日だけは、見逃してもらえないかい?」
獣は、妻を舐めるように見つめると、身をゆっくり翻して去っていきました。
静寂の森に、フクロウの声が響きます。
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