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どのくらい時間が経ったでしょう。
2人とある程度距離をとって眠っていた母親は、小鳥のさえずりに起こされました。
2人はいません。
もう出発してしまったのか、それとも・・・昨日の一件から、妻は何となく不穏な感情を抱きました。
脚の傷を癒やしながら、少し明るくなった獣道を進みます。
10分ほど歩いたでしょう。
遠くから、子どもの笑い声が聞こえました。
「・・・あの子だわ。」
それは、下の子の笑い声でした。
妻は、意識せず走り出しました。そして、ピタリと走るのを止めました。
そこには、一軒の家がありました。
上の子が、古びた木の板をかじり、下の子が、ひびの入った窓を舐めています。とても美味しそうに食べているのです。
妻は、この上ない吐き気に襲われましたが、隠れて様子を伺いました。
やがて、家の中から老婆が1人出てきました。
2人は老婆の登場に圧倒されながら、何かを話していました。
老婆は、2人を家の中に招きました。
「ウゥ・・・」
妻は、昨日感じた気配に気付きました。
「・・・おや、また来たのかい。」
獣はあの後、運よく餌を見つけたらしく、落ち着いた様子でした。
「あの子たちならもういないよ。何の用だい?」
妻が作り笑いをして見せると、獣は家に近づいていきました。
そして、妻を振り返ります。
『ついてきて』
妻には、そう聞こえたような気がしました。
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