「母の 話」

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獣は、家の裏庭に回りました。 妻は、腰を低くしながら獣の後を追います。 「・・・!!」 妻は絶句しました。 そこには、無数の洋服が捨てられています。 とても小さな服が、無残に焼かれていたのです。 獣が咥えてきたのは、関節がいくつもつながった、骨でした。 『森の奥には、この世から迫害された妖術使いがいる。永遠の命を保つのは、子どもの血と肉である。』 村に伝わる、言い伝えでした。 「・・・ありがとう、よくやったね。」 妻は、獣の頭を撫でました。 獣は、妻に答えるように、またどこかへ行きました。 「さて。」 妻は、立ち上がりました。 これまで、何度も鬱に侵されました。 これまで、何度も困窮の中生きてきました。 これまで、何度も子どもを殴り、後悔の念に押しつぶされてきました。 暗い森を、ここまで歩いてきました。 獣にも、動じませんでした。 恐怖心はありません。 母として、2人にできる最後のことは、これしかありませんでした。
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