「母の 話」

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「いいかい!かまどの火を見るんだよ!これからあんたの兄さんを食べるんだからね!」 化けの皮が剥がれた妖術使いに脅され、下の子は半泣き顔でかまどを覗きました。 バンッ!!! 下の子は、何か強い力に押し飛ばされました。 顔を思い切り床にぶつけ、泣きました。 「泣いてるんじゃないよ!!!」 その声は、嫌々聞いていた、あの声でした。 妻は、灼熱のかまどの扉をしっかり閉じ、大きな金具で抑え込んでいます。 「ここにいたら死んじまうよ!!!兄さんと逃げな!!!」 下の子は、何が起きたか分からず、座り込んでいました。 妻は、声を絞り出しました。 「早く!!!!!」 下の子は、怯えた様子で飛び上がると、上の子がつながれた牢屋へ向かいました。 下の子が行ってしまうと、妻は部屋のあちこちを物色し、硬貨や宝石を握りしめました。 「お兄ちゃーん!!!」 外から、泣き声が聞こえました。 妻は、侵入した窓から抜け出しました。 上の子は、下の子を抱きしめながら、こちらを見ました。 炭と灰だらけになった妻は、上の子の上着に金目のものを突っ込みました。 「いいかい。あと1時間ぐらい南に行けば、森から出られる。街の門に役人がいるはずだ。ハーバルさんの家に行きたいって言いな。荷馬車で連れて行ってもらえるから。」 上の子は、上着のポケットを握りしめながら、黙っていました。 「その宝石は、後で父さんに送って。」 下の子は、まだ泣いていました。 その涙を、どこからか現れた獣が、舐めてくれました。 下の子は、ヒィッと声を上げましたが、妻は獣に言いました。 「お前、森の最後まで、この子たちを運んでくれるかい?あいにく足がすくんで、動けないみたいなんでね。」 獣は、2人の前に来ると、背を向けました。 恐る恐る2人が乗ると、獣は、ゆっくりと立ち上がりました。 「さぁ、行きな。」 妻の声に合わせ、獣は動き出しました。 2人は、妻を振り返りました。 妻は、今度は2人を最後まで見送りました。
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