8人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいかい!かまどの火を見るんだよ!これからあんたの兄さんを食べるんだからね!」
化けの皮が剥がれた妖術使いに脅され、下の子は半泣き顔でかまどを覗きました。
バンッ!!!
下の子は、何か強い力に押し飛ばされました。
顔を思い切り床にぶつけ、泣きました。
「泣いてるんじゃないよ!!!」
その声は、嫌々聞いていた、あの声でした。
妻は、灼熱のかまどの扉をしっかり閉じ、大きな金具で抑え込んでいます。
「ここにいたら死んじまうよ!!!兄さんと逃げな!!!」
下の子は、何が起きたか分からず、座り込んでいました。
妻は、声を絞り出しました。
「早く!!!!!」
下の子は、怯えた様子で飛び上がると、上の子がつながれた牢屋へ向かいました。
下の子が行ってしまうと、妻は部屋のあちこちを物色し、硬貨や宝石を握りしめました。
「お兄ちゃーん!!!」
外から、泣き声が聞こえました。
妻は、侵入した窓から抜け出しました。
上の子は、下の子を抱きしめながら、こちらを見ました。
炭と灰だらけになった妻は、上の子の上着に金目のものを突っ込みました。
「いいかい。あと1時間ぐらい南に行けば、森から出られる。街の門に役人がいるはずだ。ハーバルさんの家に行きたいって言いな。荷馬車で連れて行ってもらえるから。」
上の子は、上着のポケットを握りしめながら、黙っていました。
「その宝石は、後で父さんに送って。」
下の子は、まだ泣いていました。
その涙を、どこからか現れた獣が、舐めてくれました。
下の子は、ヒィッと声を上げましたが、妻は獣に言いました。
「お前、森の最後まで、この子たちを運んでくれるかい?あいにく足がすくんで、動けないみたいなんでね。」
獣は、2人の前に来ると、背を向けました。
恐る恐る2人が乗ると、獣は、ゆっくりと立ち上がりました。
「さぁ、行きな。」
妻の声に合わせ、獣は動き出しました。
2人は、妻を振り返りました。
妻は、今度は2人を最後まで見送りました。
最初のコメントを投稿しよう!