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グサッ
妻の全身に、鈍い感覚が走りました。
「余計なことしやがって・・・」
ヒステリックな自分を慰めた、あの声ではありませんでした。
「・・・」
妻は、全てを悟りました。
あの人は、2人を殺すつもりだった。
里親に出したとしても、それそうの養育費はこちらが負担するのだから。
しかし自分の手を染めたくはない。
自分は、良い父親のままでいたい。
だから他人に殺してもらう。
妻にも、嫌気がさした。
あいつはどうせ衰弱死するから、放っておけばいい。
その妻が自分の計画を崩壊させた。
薄れゆく意識の中で、妻は考えました。
一体自分は何者だったのか。
勝手に精神を病み、勝手に怒鳴り散らし、勝手に母親面で探し、勝手に死んでいく。
そんな自分は、あの子たちにとって、何だったのか。
妻の体に、冷たい雨が降り注ぎました。
雨は勢いを増していきます。
次々と、体に染み込みます。
赤くくすんだ雨粒が、川になり、目の前を流れていきます。
獣の足音が聞こえます。
妻は、かすかに残った視力で獣を見上げました。
そして、微笑みました。
「よくやったねぇ・・・食べていいよ・・・」
救われなかった 母の話
おしまい
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