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「私は・・・馬鹿で嘘つきなのか・・・」
王である自分が、馬鹿である。
信じたくありませんでした。
でも、真実として、それは目の前に現れています。
上半身裸の老人が、鏡の中から弱々しく見つめてきます。
箱をしまい、気晴らしに、城の中を散歩しました。
しかし、すれ違う使用人たちの貼り付いたような笑顔が、自分を嘲笑っているようにしか見えなくなりました。
王様は、絶望の淵に立っていました。
「ご気分が優れないようですね。王様。」
王様が顔を上げると、草むしりの手袋をはめた彼女がいました。
王様は、これまでの経緯を話しました。
先程の場に同席していなかったジーナは、黙って話を聴いていました。
「ジーナ・・・私は、どうやら馬鹿だったようだ・・・」
王様は、顔を覆いました。
「どうして馬鹿ではいけないのですか?」
ジーナは、首に巻かれたタオルで首を拭きました。
「私は国王だ。指導者である私が馬鹿であったら、誰も信用しなくなる。」
「どうして馬鹿だと信用しないのですか?」
ジーナは、水筒の水を飲みながら言いました。
「・・・君は、馬鹿な人間を信用したいと思うのかね?」
「むしろ、馬鹿でない人間などいるのでしょうか?」
ジーナの澄んだ青い瞳が、王様を捉えました。
「王様。あなたは今、ご自身を馬鹿だとおっしゃいました。それは、あなたが賢明だからです。」
「・・・どういうことだ?」
「ある哲学者がこう言いました。『自分は無能であることを、自分は知っている。』と。人にとって、自分の弱点や過ちを認めることは恥であり、ましてや周りが同調しているなら、それらは余計にしづらくなってしまいます。その中で、王様はそれに気がつかれました。」
「・・・あぁ・・・」
王様は、彼女が言っていることが、溶けた氷のように徐々に理解できる感覚を覚えました。
「・・・え、では、さっき服が見えると言った者たちは・・・」
「そこから先は、王様のお考えにお任せしますよ。」
ジーナは、深々と一礼すると、草袋を持って仕事へ戻りました。
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