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物心ついたころから、彼は単独で行動していました。
移動するときも、ほどよい間をとっていました。
餌を食べるときも、歩く速度が遅いふりをして、わざと最後に食べに行きました。
寝るときも、自分の姿を隠すように、藁を覆いかぶさりました。
ある日、少し遠くの湖で泳ぎの練習をしていた時です。
彼は、うつろな気持ちで泳いでいました。
そのため、突然の波動に気が付かなかったのかもしれません。
彼は体が宙に浮くような感覚に襲われ、しばらく動くことができませんでした。
「・・・ガキ・・・おい・・・。」
ドスの利いた声と、ジリジリ照りつける光の暑さで、彼は目を覚ましました。
視界がひらけてくると、彼は声の主を捉えました。
鋭い目に、くすんだ緑や青の羽がアクセント。
それは、大人のマガモでした。
彼は、ただじっとマガモの目を見つめました。
「何だよおい!!そんな昼飯じゃ腹一杯になんねーだろーが!!」
遠くから、バサバサ何かが迫ってきました。
影がどんどん多くなり、マガモの大群が彼を囲みました。
彼は、自分の状況を薄々感じ取りました。
自分は殺される。
しかし彼は、それ以上には何も感じませんでした。
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