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テラの者達は、結局クーデターを起こされてもなんら反省していなかったわけだ。
ベティのことも、彼のレジスタンスの仲間を人質にして脅迫したに過ぎない。リアナの夫になれ――そして、憎い惑星の女王の子を産めと。
ガイアの民ならば、相手が女性であろうと卵子がなかろうと、遺伝子情報さえ与えられば妊娠できる。あろうことか研究者達は、麻酔もなく彼の子宮に無理矢理リアナの血液を流し込んで妊娠させるという、拷問のような手段を取ったのだ。
彼が逃げ出すなど当然だ。
結局運命に逆らえず、仇の惑星の世継ぎを孕む結果になってしまったとあっては。
「……私は、ベティを笑顔にしたいと言いながら、助けたいと願いながら、肝心なことが何もわかっていなくて……傷つけ続けてきました。皮肉なことに、自分が女王として何が足らないのかやっとわかった今、そばにあの人はいないのです……」
これはもはや、罰なのだろう。
何も知らず、愛する人を苦しめ、女王としても女としても人間としても愚かであったリアナへの。
「ですから。私は貴方に礼を言いたいのです……エスメア。ベティを連れ戻さないでいれくれた、そんな貴方に」
「私は、ただ……」
エスメアは苦悩を噛み締めつつ、それでも告げた。
「私はただ。軍人でありテラの民である以前に……心を持った一人の人間であることを、忘れたくないと思っただけです」
彼は初めて、上司にも命令にも逆らったのだ。
敵であるはずの、一人の少年の尊厳を守るため。己が、人であることを忘れないために。
「それで良かったのですよ、エスメア。貴方は代わりに、テラにずっと欠けていたものを取り戻してくれた。人としての、誰かを思いやり重んじる心を。どんな宝も、その心の前には霞むもの。私はテラの人々に、貴方と同じ気持ちを思い出してほしいと願います」
もう一度、ここから始めよう。リアナは深く深く息を吐き、テラスから広大な世界を見据えた。
いつか青い海を、青い空を、青い森を取り戻し。人々に豊かな心を取り戻す、そんな女王となるのだ。そうして初めて自分はかの人に正しく謝罪し、迎えに行く権利を持つのである。
――たくさん、たくさん間違えてしまったけれど。今度は、今度こそはきっと。
断られるかもしれないけれど、その時には今度こそ真正面から告げようと思うのだ。
――ベティ・ロックハート。貴方を愛しています。
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