<第一話>

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 唯一の王の跡継ぎ。唯一の娘。  リアナは父王にも忠臣達にもとにかく甘やかされて育ったのだった。それこそ可愛がるというよりも、壊れ物を扱うような過剰な丁寧さで。  リアナが勉強が嫌だ!と言えばけして無理強いはされず、食べ物のあれが嫌いだ!と言えば即座にその場で新しい料理が提供された。それは人に対しても変わることがない。少しでも嫌なことがあれば言ってくださいね、と父の側近であるエルザが優しく言ってくれるので――リアナは彼女を母のように慕い、なんでも報告したのだった。あのメイドが悪口を言っていたということから、あのメイドが持っているような髪飾りが自分も欲しいというようなことまで全て。  己の欲しいと思ったもので、手に入らなかったものは殆どなく――自分がそれを告げることで一体どのような迷惑をかけてきたかなど、微塵も気づいてはいなかったのである。  リアナは甘やかされ、ひたすら誉められ続けて育った。それは自分で言うのもアレではあるが、リアナが一人の少女としても非常に整った容姿の持ち主であったということだろう。  唯一手に入らなかったのは、父との時間である。  父王は、祖父とはまるで違う政治をしようとして、その結果大きく人々の反感を買っていたのだった。ゆえに、外の世界ではずいぶんと危ない目にも遭っていたようである。自ら駆けずり回り、人々を指導し、不満を受け止め続ける王。非常に立派なものだった、とリアナが知ったのは――それこそ、父が亡くなってしまった後になってからのことなのだった。  当時の幼いリアナに納得するのは無理があったのである。 『どうして父上は私といっしょにいてくれないのですか!私とあそんでくれないのですか!リアナはさみしいですっ!父上と一緒でなければいやです!』  何度そう言って、父を困らせたか知れない。  幼いゆえに何も理解できていなかったリアナは――同時に、自分でも理解しようという努力を怠っていたのだった。  望むものは、自分が願えば必ず誰かが運んできてくれるものと――そう信じてきたのだから。
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