<第二話>

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<第二話>

 父を失ったリアナにとって、頼れるのは父が信頼していた側近達や軍人達のみだった。特に、母親代わりとなって面倒を見てくれていたエルザに全てを任せてしまおうと思うのは、なんら不思議なことではなかっただろう。  勿論、もしここでリアナにもう少し政治の知識があり、テラの現状を理解できる頭があったのなら――一人の執政官に全面的な権限を握らせることがどれほど危険であるのか、わからなかったはずがないのだが。当時のリアナにとっては、父は普通に事故死したにすぎなかったし、両親も伯父、伯母、祖父母もみんな次々亡くなったこの現状を、特に怪しむということもできなかったのである。  周辺の貴族達が、こぞって“これはガイアの民の呪いに違いない”と戦々恐々としているということも――知ったのは、割合最近のことであったりするほどだ。イクス・ガイアはかつてファラビアが侵略戦争で滅ぼした星の一つである。彼らがそれほど恐れるくらいに、対ガイアの殲滅戦が悲惨極まりないものであったのだ。同時に辺境の魔導国家を率いた英雄に対して、どれほど悲惨な拷問を加えたのかということも。  リアナが知らないうちに、ファラビア・テラはどんどん覇道――否、破滅への道を進んでいたのだった。  汚染された土地は広がる一方。食糧不足は深刻になる一方。加速度的に増加する人口に手を打つこともなく、下層階級達がいくら飢えていても環境が悪化していっても、王族貴族達は今まで通りの贅沢三昧。好きなようにものを食べワガママにご馳走を残し、電気もガスも水道も思うさまにじゃぶじゃぶと使い続ける。リアナ自身もその例に漏れることはない。なんせ、王宮――正確には王都であるオービタルシティの外の環境がどうなっているのかなんて、知らないし全く考えたこともないのだ。  街に迫る砂漠も。  タールまみれの元・海に近い場所で、綺麗な水も飲むことができずに疫病で死んでいく人々も。  何もせずに女王が安穏と生活していく中、リアナの代わりに実権を握っていたエルザはある決断をしようとしていたのだった。 『この惑星も、ついに限界が来ようとしているらしい。下層階級どもがボコボコと子供を産み、平民どもが貴族の真似事をして分をわきまえぬせいであるぞ。今から環境対策を始めたとしたら、成果が出るのは一体何十年後になることか。どれほどの予算と人員が費やされることになることか。とても財源が足りぬ。貴族から税を取り立てるようなことにもなれば、王宮に批判が集まることは必死ぞ』  彼女の意見は、ある意味では何よりも正しいものだったのだろう。  確かに彼女は若々しい見た目に反して非常に長く生きている古参の執政官ではあったが、だからといって惑星がここまで追い込まれた全ての元凶であろうはずがない。彼女が産まれる前からこの惑星は、王は、環境対策に費やされる財源などないとつっぱね、侵略ばかりすることによってどうにか資源を食いつないできた背景があるのである。  そのツケを、ついに払わざるをえない時が来た、ただそれだけのことではあったのだろう。  エルザはこの惑星を捨て、新たな新天地を探すことを考え始めていたのだった。その折、都合よく増えすぎた最下層の人々を見捨てていくことを前提に。人減らしと、汚染されていない美しい惑星。その両方でもってして、深刻な汚染問題と資源不足を解決しようと考えたのだ。
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