<第二話>

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『何、問題はあるまい。我々は銀河の覇者、ファラビア・テラ。神が選びし、神の惑星。我々に逆らえるような軍事力を持つ惑星などない。それどころか、全ての惑星が束になったところで我らの兵力に叶うことなどあるものか……!』  さすがに、移住の話はリアナの耳にも入るところだった。だが、リアナには“テラの民を救うためにやむをえない移住であり、当然可能な限り他の惑星の人々とは平和的に交渉する”としか聞かされてはいなかったのである。  きちんと書類を読めない、言語として読むことはできても意味を理解できる頭がないリアナが、最後の調印にサインをしてしまうのは――なんらおかしなことではなかったと言える。リアナは全く知らないうちに、侵略戦争の引き金を引こうとしてしまっていたのだ。  そう、そもそも平和的な交渉など、最初から不可能であったというのにそれさえも知らなかったのだから喜劇だろう。  ファラビア・テラは長年、自分達以外の惑星は全て塵芥も同然の扱いをしてきた。中立組織にいくら窘められても訊く耳を持たず、私利私欲のため、自分達が生き残るためだけに戦争を繰り返してきたのである。  テラの植民地となった惑星は皆悲惨な末路を強いられたらしい。らしい、というのは未だにリアナも文字でしかそれらを知らないからである。ただ大人しく投降し植民地となった惑星は、あらゆる資源をタダ同然で絞られてボロボロに使い古されて捨てられ、抵抗した惑星の人々は人間としての尊厳も奪われて殺戮、あるいは奴隷にして連れ去られたのだという。テラの民は昔から、敗戦国の異星人達を拉致しては、特に見眼のいい者達をこれも貴族の嗜みとしてペットとして飼う習慣があったのだ。王宮に出入り、居住を許されている上級貴族達でさえその例には漏れないのである。  そんな惑星の住人たちが、だ。殊勝に“移住させてくれ”などと頭を下げたとて、一体誰が訊く耳を持つというのだろうか。散々自分達を脅し、怯えさせておいて何を今更と思うのが普通のことだろう。  そもそも、テラの何兆人もの人口を受け入れられる惑星が、一体どこにあるというのか。貴族だけでも億単位に登るのである。惑星一つ二つで賄えるような人口ではない。むしろ元々住んでいた住人達を全て追い出しでもしない限り――安全に、健康で住める広い土地など得られるはずがないのだ。  エルザは特に環境の良い惑星を特に絞り、着々と侵略戦争の準備を進めていたのだった。彼らを有無を言わせず戦争を仕掛けて黙らせ、皆殺しにし、人々が健康に暮らせる土地と豊富な資源を奪い取る――そのために。 『遠慮はいらぬ、全て奪い尽くすがいいぞ!神は我らの元にあらせられるのだから!!』  だが、エルザの計画は――直前で破綻することになる。  あと数日で宇宙戦艦を出撃させる、その直前の直前で――王都に、突如レジスタンスが攻め込んできたのだった。  階級制度、打倒王政を掲げる地下組織――『蒼き翼』。  彼らがオービタルシティに攻め込んできた上、大量の兵器を破壊し被害を拡大させてくれたおかげで、移住計画は直前で完全に白紙に返されることになったのだった。  そして、リアナは“彼”と出会うことになるのである。  かつてファラビア・テラが戦争で滅ぼした魔導師達の惑星――イクス・ガイア。その生き残りであり、異星人でありながらレジスタンスを率いた英雄――ベティ・ロックハートと。
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