<第二話>

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 *** 「正直私は、驚かされました。ええそれはもう、色々な意味で」  苦笑混じりに、リアナは語る。 「まさか私が、王族が……あそこまで人々の恨みを買っていたなどと、まったくつゆほども思いませんでしたもの」 「リアナ様は、街の外の世界の物語なども読まれたことがなかったのでしょうか?その……お部屋にはかなり本も多いと伺っていたのですが」 「そうですね、参考書の類は埃被っていましたけれど、物語は結構読んでいましたよ。空想小説ばかりですけど」  つまり、全く現実を知る参考にはならなかったということである。  ゆえにリアナは、この世界のどこかには青い海が存在するものと信じていたし、この素晴らしい惑星は殆どがオービタルシティのような洗練された町並みが広がっているばかりと思い込んできたのである。  そもそもこの王都さえも、実際は地下に下層階級の人々が身を寄せ合うスラム街などが形成されている有様。それなのに、リアナは話に聞くまで、屋根のある場所で寝ることもできなければ今日食べる食べ物ゴミ箱を漁るしかない――そんな生活をしている浮浪児や売春婦達がいるなど全く想像もしていなかったのである。  何度もオービタルシティの広場に出向き、人々に顔を見せるイベントなどは行ってきたが。その実、女王の眼に“汚らしいもの”が映らないよう――リアナが到着する前に、兵士達が身分の低い者達を広場から追い払っていた、というのは当初リアナも知らされていなかった事実だった。 「私が幸せなら、民も皆幸せであるはずと信じていました。祖父も父も信頼していたエルザや軍部の者達が、そのような人々を不幸にするような政治などしているはずがないと。……いいえ、こんなのは言い訳ですね。私は自分では何も知ろうとせず、努力しようともせず、軟禁されている身に甘んじて好き勝手贅沢をして暮らしていただけ。実権を奪われたのではなく、彼女に預けて楽をしていただけなのです。……階級の下の方の人々の悲惨な生活も、移民してきた人々がどれほど冷遇されてきたのかも……かつて祖父や祖先達がどれほど酷い戦争を他の惑星に仕掛け、犠牲者を増やしてきたのかも。私はこの時まで、何一つ知りませんでした」  結論を言えば、クーデターは失敗した。  ガイアの生き残りであり、莫大な魔力を誇った最強も魔導師であったベティ。彼は軍に大きなダメージを与えたものの、他のレジスタンス達は彼ほどの戦闘能力を持ち合わせていたわけではなかったのである。  どうやら、彼が自力で戦火に焼かれる故郷から逃れた後、テラのレジスタンス達に救出され、彼らと共にテラの地下に身を潜めてきたということらしいが。魔法で戦えるベティとは違い、テラの民は魔法なんてものは使えない。武器は重火器と純粋な戦闘能力のみ。そして、レジスタンス達が手に入れられた武器は、国王軍のものと比べるとあまりにも数が少なく質の悪いものばかりである。  ベティひとりが頑張っても、世界を変えることはできない。  国王軍に甚大なダメージこそ与えたものの、仲間を人質に取られた彼は動きを封じられ、捕らえられた。――リアナが真正面から、幼い少年の姿をしたベティを見たのはまさにこの時が初めてである。
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