第5話 顔を見せない女

2/2
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 もう、だいぶ前の話になりますが、一時期就寝前の瞑想(妄想?)に凝っていた時期がありまして、毎晩のように行っていました。  瞑想の中で、僕はインドの行者風の老人と出会って話をしたり、書物や水晶玉をもらったりしていました。  ひょっとしたら僕が行っていたのは瞑想ではなく、自分の脳内に存在する雑多なキャラクターと出会っていたのかもしれません。  ある時期から、瞑想中の瞼の裏に着物姿の女が現れるようになりました。  常に後ろ姿で顔が見えないのですが、竹久夢二の絵画に出てくるような細身の女で、100%僕の好きなタイプです。  少し不思議な気持ちがしましたが、半覚醒中の瞼の裏に現れる女は男のモヤモヤとした妄想の産物に違いありません。瞑想に集中すれば見えなくなる種類のものだと放っておきました。  それから数日間、瞑想する度に女は姿を現すようになりました。  僕は様々なキャラクターと出会いながら、横目で女の後ろ姿を眺めていました。ところが男の性なのでしょうか、しだいにスケベ心が強くなってきて、僕は女の顔を見たくなりました。  女は僕の妄想です。だから顔を見るのは簡単なことです。  瞑想(妄想)の中で、僕は女の正面から回り込んで顔を見てやろうと思いました。しかし――  僕が近づくと、女はクルリと踵を返してしまいました。さらに回り込んでもクルリ。肩をつかまえて覗きこもうとすると、袖で顔を隠してしまいます。  当初は簡単なことだと思っていましたが、意に反して、なかなか難しいことだと気がつきました。  こうなると少し意地も出てきます。  瞑想(もう完全に妄想ですね)の中で強く念じて、意中の女を振り向かせようとしました。そうしたら……。  「バチッ」と音が出るほどに強く、僕の目に衝撃が走りました。  驚いて覚醒した後も、片方の目にジーンと痺れたような痛みがしばらく続きました。    翌日から僕の瞑想に、女は現れなくなりました。つまり、女は僕を叩いて逃げたのです。  実に奇妙な形で、僕の妄想(笑)は幕を閉じました。きっと、スケベな男に嫌気が差したのでしょうね。  僕の瞑想(妄想)中に現れた女は、僕の脳内に存在する雑多なキャラクターの一つにちがいありませんが、このエッセイを書くにあたって夢に関連する妖怪を検索してみました。  悪夢を食べる幻獣の(ばく)や、就寝中の人の枕にいたずらをする反枕(まくらがえし)。その他にSLEEP(睡眠)とSHEEP(羊)の語呂合わせから生まれた夢落羊(めおめ)などが出てきました。  けっこういますね。  さらに女性系ということで絞り込むと、リリスの娘の夢魔が出てきます。  多少バタ臭い気がしますが、妖怪や悪魔の中ではこれが一番近いのかな。  もしかして……。もしかしたらですが。僕が出会った顔を見せない女は、この中のどれかか、もしくは未確認の妖怪……だったのかもしれませんね。 (^ω^)
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!