この物語はフィクションです。

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     ◇  ある昼下がりの喫茶室。昼食時の賑わいはすっかり鳴りを潜め、5つしかない焦げ茶の木製のテーブルのうち客がいるのは一つだけだ。  店内に音楽の類はかかっておらず、キッチンの作業音だけが控えめにカチャカチャと響いている。窓はすりガラスで入り口も木製のため、店内は隠れ家的な雰囲気を醸し出していた。  客は三十代の女が二人で、友人同士だと思われる。この穏やかで静謐な空気を破壊するパーカッションのように、ひっきりなしに世間話をしていた。 「そうそう、聞いてよ! うちの旦那がさぁ」 「A男さん?」  この年代の女が話すことといえば、ほぼ家庭の話である。相手がいまだ独身であるというのにお構いなしに旦那や子供の愚痴を言うのだ。  B子のそういう無神経な所は(かん)に触っていたが、付き合いが長いためC子は半ば諦めて今日も付き合っていた。 「この間の選挙、タピオカに入れたんだって!」 「ええー……よりによってタピオカに?」 「そうなのー!」
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