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入部希望
始業式の日。
朝ヶ丘高校では三年間クラス替えがないので、かわり映えしないクラスメートたちと顔を合わせ、担任による退屈な話を聞く。
授業は翌日からなので、橘は放課後すぐに所属している陸上部の部室へ行った。
練習も翌日からなので、短いミーティングのあと、部活仲間たちと談笑していると、部室のドアをノックする音。
「はーい。どうぞー」
部員の一人が返事をすると、ドアがゆっくり開かれ、瞬間、部室の明かりのトーンが明るくなった気がした。
あ、と橘は思う。昨日の入学式の日に見た、美少女ならぬ美少年だ。
四方山話で盛り上がっていた男子部員たちが、一様にピタッと話をやめ、キラキラ輝くオーラを纏う少年に見入る。
少年は深々と行儀良いお辞儀をしてから、小さな唇を緊張気味に開いた。
「あの、僕……、入部したいんですけど……」
声は甘く綺麗だったが、確かに男のものである。
「あの……」
何人もの部員たちに穴が開くほど見られて、少年は少し臆したように立ちすくんでいる。
不意に、橘と少年の目が合う。
橘は昨日すでに彼の姿を見ていたが、こうしてごく近くで見ると、本当に息を呑むほど綺麗だった。
ぱっちりと大きな目は、黒目が大きく、涙をたたえたように潤んでいる。形のいい小ぶりの鼻、さくらんぼのように艶やかな唇、肌は赤ちゃんみたいに柔らかそうで、クセのない髪は天使の輪も鮮やかでサラサラ。
奇跡のような美少年は、なぜか橘のほうを凝視している。
愛くるしい瞳に見つめられて、橘は柄にもなくドギマギしてしまった。
「あー、えっと、入部希望、だね……」
橘がそう言うと、
「はい」
彼は少しはにかんだようにうなずいた。
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