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「……この街も素敵だね」
「ああ」
俺と栞は固く手を握りしめながらモミの木を眺める。辺りを見回してもカップルしか確認することは出来ない。それぞれがそれぞれの世界に入っている。
「さっきの話だけどさ」
「うん」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「俺はずっと栞のパートナーで居続けるよ。これからも二人で二人だけの物語を紡いでいこう」
「……やっぱり一、私よりセンスあるよ。まぁ、だからこそ二人で幸せを綴っていけるのかもね。私一人だけで書いていく物語じゃないもんね。私と一で書いていく物語だもんね」
「栞が俺達の旅を物語にした。今度はその逆。俺達の物語を旅にしていこう。また、初めて出会ったあの時のように、俺をガイドしていってくれないか」
あの日は栞から持ちかけてくれた。今度は俺の方から言葉を投げる。勿論、"ガイド料"も忘れていない。俺は栞の左手の上に小さな箱を置いた。
「……開けていい?」
俺が頷くと、栞は小さく震えながら丁寧に紐をほどいていく。これまでの俺達の旅の思い出をゆっくりと紐解いていくかのように、ゆっくり、ゆっくりと丁寧に栞は指を動かしていく。紐をほどき終えると栞は箱を空ける。栞はふっと小さく笑った。
「……今度は5000円じゃなさそうだね」
「流石にな」
俺はその箱の中から銀色に光る指輪を取出し、栞の微かに震える左手の薬指にはめた。
「しょうがないなぁ、もう。分かった、一の旅をまた導いてあげる。でも条件があるの」
「条件?」
俺が聞き返すと同時に、鐘の音が聞こえてきた。
カラァン……カラァン……。
こんなにはっきりと聞こえるのに、音は重くなく、
それでいて心に染み渡っていく音色は耳に心地よく響く。
栞ははにかみながら、俺の目を見て呟いた。
「ハッピーエンドじゃないと、駄目だから」
「……分かってるよ」
「それなら……問題ないね」
鐘の音に合わせて、モミの木は光り輝いている。俺達を祝福してくれているのだろうか。どちらともなく、俺と栞は唇を重ねた。
いつの日も、これからも。
巡り巡る日々を二人で生きていく。
「よろしく、パートナーさん」
二人の物語(たび)をハッピーエンドに導く為に。
-完-
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