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「たしかにこんな世の中生きていても馬鹿らしいですが、それこれとは話が別ですわ。善悪の問題ではありません。乙女のプライドを深く傷つけられて故郷を飛び出した、とても可哀想な私の財布を盗んだことが許せないのです。私は、幼少時よりコツコツと貯めてきたお小遣いで気が済むまで豪遊した後、自殺する予定なのですから。私が本気で怒る前に私のお金を返してください」
「ペラペラとうるさい女だぜ……。おい、お前ら。この女を黙らせろ」
いがぐり頭が口汚くそう怒鳴ると、彼の仲間の一人が「ひっひっひっ。久し振りの女だ。嫁に行けなくなるような顔になるまで殴られたくなかったら、ちょっとの間だけ大人しくしていな」といかにも小悪党らしい台詞を吐き、恵美子の華奢な肩に触れた。恵美子の肩は、わなわなと小刻みに震えている。
「おいおい、お嬢ちゃん。さっきまでは威勢のいいことを言っていたのに、怯えているのか? なぁに、心配するな。じっと我慢していたらすぐに済む……んんん⁉」
ガシッ、と恵美子は背後の男の手首をつかんだ。可憐な見た目からは想像できないほどの握力に、男は驚いて目を大きく見開く。
「…………今、何と言いましたか?」
恵美子は、ゆぅ~っくりと首だけ振り向き、男にその美貌を見せた。男はハッと見惚れる。そして、爛々と燃えたぎっている彼女の両眼を見て、ウグッと唸った。
まさに外面如菩薩内心如夜叉。何が彼女をそこまで怒らせたのか、悪鬼羅刹もかくやとばかりの凄みを放っていた。
「私が……お嫁に行けないですって? ……ふ、ふふふ。うーふふのーふー♪ ええ、そうですよぉ~。私ぃ~、何を隠そう十二回も縁談が破談になっていますのぉ~。あなたがたに乱暴されて顔が醜く変形しなくても、私は誰にもお嫁にしてもらえないんですよ。私は……私は……残念無念な丙午生まれの女なんやわぁぁぁぁぁぁーーーっ‼」
「うぎゃぁぁぁ⁉」
恵美子が絶叫した直後、男の体は宙を浮いていた。
電光石火の早業。恵美子は男の顎めがけて強烈な拳を振り上げ、見事に命中、的中、大当たり。男は狐の石像に頭をぶつけて気絶した。
「うわぁぁぁん! 丙午生まれの女は縁起が悪いなんて迷信、いったい誰が言いだしたんやぁぁぁ‼ ああ無情ぉぉぉ‼」
「ひ、ひいぃぃぃ!」
「やめてくれぇぇぇ!」
恵美子は号泣しながら、父から教わった「護身術」で悪党たちを叩きのめしていった。
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