第2話 神様を名乗るへなちょこ少女

2/3
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「どちら様ですかって? 神様ですよぉ! あなたにたった今お家を壊された神様です!」  よろよろと立ち上がった泣きべそ少女は、木綿の着物についた(ほこり)を払いながらキャンキャンと吠える。やっぱり迫力はへなちょこである。女神らしい神々しさなんてちっとも感じない。 「神を祀っている祠をどんがらがっしゃーん! しちゃうなんて、近頃の女学校はどういう教育をしているのですか。そんな罰当たりだから十二回も破談になっちゃうんですよ! プンスカプン!」  自称神様の少女は、恵美子が女学生の服装――(はかま)姿だったため、現役の女学生と思ったらしい。彼女が乱暴なのは教師たちの学校教育がなっとらんからだと思い、そう罵った。しかし、こんなにもデンジャラスな(元)女学生は日本中を探しても恵美子ぐらいだろう。 「む、むむむ。これはただの事故です。悪気があったわけではないから、お稲荷(いなり)様もきっと許してくださるはずですわ」 「だから! 本人が! 許さないと言っているのです! 神罰下しますよ⁉」 「……さっきから自分のことを神だと名乗っているあなたこそ罰当たりだと思うのですが。あっ、もしかして、頭の病気でしょうか? お医者様に診てもらったほうがいいと思いますよ?」 「むきーっ! 神の言葉を信じないとは、不届き千万ですぅ~!」  自称神様の少女は、地団駄を踏んだ。見た目は十八歳ぐらいなのに、言動は小学生並みの幼稚さである。小物臭がプンプンする。 「いいでしょう! 私が立派な神――食物神である証拠を見せてあげます!」 「食物神である証拠?」 「ええ。ここの(やしろ)は縁結びの神として私を祀っていますが、私は本来、食物を(つかさど)る女神なのです。あなた、今食べたい物はありませんか?」 「食べたい物? そうですね……。アイスクリーム……とか?」 「贅沢(ぜいたく)な物を欲しがる子ですね。これだから、女学校に通わせてもらえるような金持ちの家の娘は嫌なのです。……では、手のひらをこっちに差し出してください」  恵美子は、半信半疑ながら、言われた通りに水をすくうように両の手のひらを少女の前に差し出した。材料も何もないのにアイスクリームを作れるはずがないと内心思っていたが、この頭が残念そうな少女が何をするのか興味を抱いたのだ。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!