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世界一美しい女王には世界一嫌いな相手がいた。それは世界一可愛い少女だった。
女王は恐れていた。その少女がやがて大人になり、世界一美しい女性と言われることを。その少女の名前が白雪姫。そう、これは童話、白雪姫の世界。
そこに転生した男がいた。男が転生したのは白雪姫でも女王でもない。世界一美しい女性の名前を告げる魔法の鏡。
男が転生するその日は、白雪姫が世界一美しい女性になる日だった。
白雪姫はボロボロの衣服を身にまとい、朝の日課の水汲みへ。使用人以下の扱いは、すべて女王の指示。秘められた白雪姫の美しさを汚すため。
今日も井戸の底に向かって歌う白雪姫。牢獄に囚われたような一人きりの毎日。反響して返ってくる自分の声とのハーモニーで寂しさを紛らわしていた。
そこへ王子様が現れた。白雪姫の美しい歌声に導かれ、庶民では一生懸けても手の届かない、純白のビロードを身にまとっていた。
白雪姫は穴に籠るように、自分の小屋へ逃げ込んだ。バタンとドアを閉めて寄り掛かる。俯いて見つめているのは、全身を写すだけの大きな鏡。
ボロきれの自分の姿を見ながら、王子様のビロード姿を思い出すと、恥ずかしさと悲しさで、自分の不幸を実感させられた。
その時に聞こえてきたのが王子様の歌声。それは先ほど白雪姫が歌っていた歌だった。カエルの歌のような輪唱曲。男と女が運命的な出会いを果たして、その喜びの気持ちを掛け合う歌。
王子様の想いを悟った白雪姫は、答える代わりに歌った。ドアを開いて姿を現し、歌を掛け合うことで、芽生えた愛が白雪姫を大人に変えた。
その光景を目撃していた女王。白雪姫の小屋はお城の脇に建てられていた。ちょうど、女王の自室からすべてが見える場所。白雪姫を監視するために用意した牢獄である。
女王は魔法の鏡の前に立った。すぐには問いかけない。ためらったのは白雪姫の名前を呼ばれる恐れと、もしかしたらまだ自分が呼ばれるかもしれない。そんな期待から。
その時である。雨も降っていないのに雷がお城に落ちた。お城の中まで光で満たされたけど、揺れるような衝撃はなかった。なのに魔法の鏡だけが床に落ちていた。男が転生した瞬間である。
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