転生白雪姫

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 女王は割れていないかと鏡を抱き起こし、傷ひとつないのを確かめると世界一美しい女性を問いかけた。鏡はしばらく考え込んで、 「小梅」 「コウメ?」  女王には発音すら困難な名前。この男の前世は日本。しかも江戸時代の売れない浮世絵師。染吉という名で、小梅というのは入れ込んでいた遊女であった。小梅の身入れを聞いたショックで死んで転生したのだった。  白雪姫の童話を知らなくても、魔法の鏡へ転生したことで、この世のすべてを理解できた。この世は小梅がいない世界。突然のことにようやく落ち着きを取り戻し、この童話の世界で一番美しい女性を改めて伝えた。 「キャサリン」  女王は再び聞き返した。自分の名前か白雪姫が呼ばれると思っていたからだ。 「キャサリン」  もう聞き間違えじゃない。確実にキャサリンと言っている。女王はキャサリンなんて名前の美しい女性を知らなかった。  何かの間違いじゃないかと信じられない。落ちた拍子におかしくなったのではと疑って、確かめるために染吉からキャサリンの詳しい居場所を聞き出し、女王は向かった。  染吉から教えられた居場所は森近くの小さな村。貨幣の流通が乏しくて、物々交換が主流の貧しい村だった。  当然、住民たちの身なりは褒められたものじゃない。その日暮らしを乗り切ることが先決で、身なりに気を回す余裕なんてなかった。破れた箇所は布の切れ端で補う継ぎはぎだらけ、泥のシミは洗濯をしても落ちないほどの染み込みよう。とても美しい女性が育つような環境には思えなかった。そして、見つけたキャサリンは、やっぱり美しいとは程遠い容姿だった。  目が線を引いたように細く。彫りも浅くて垂れ目で、凹凸の少ない平たい丸顔。そう、染吉の美的感覚は、江戸時代の日本人である。  西洋人の女王が理解できるはずがない。染吉の間違いを確信した女王。馬車の中でキャサリンを覗き見ていて高笑いが止まらない。お抱えの世界一の画家に醜いキャサリンを描かせた。
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