1人が本棚に入れています
本棚に追加
女王は城へ戻ると真っ先に染吉のもとへ。似顔絵を突きつけて、痛烈に間違いを指摘した。
「どこをどう見たら美人に映るのよ。世界一と言うなら醜さで一番よ」
染吉は呆れるようにため息をついた。
「全然似てないよそれ」
「そんなわけはない。世界一の画家に描かせたのよ」
「そこがまず間違ってるから。俺に言わせたら凡人だね」
染吉の発言は妬みから生まれた嘘。売れない浮世絵師としての暗黒時代が、他人の才能を認めることを許さなかった。それ故に前世では同じ釜の飯を食った仲間の成功を喜べず、嘘をでっち上げてまで仲間の評判を落とすような小さい男であった。
「何言っているの? 世界一だと言ったのはあなたじゃない」
画家を世界一だと言ったのは、染吉が転生する前の魔法の鏡だった。染吉は説明するのが面倒で、適当に話を合わせて答えた。
「あぁ~それね。確かに世界一だったね。だけど、人は成長もするけど、退化もするんだよ。あんたが世界一なんてもてはやすからだよ。一番の原因はあんただよ」
「わたくしが・・・」
女王の言葉は風船がしぼむように静かに消えた。確かに染吉の言う通り、世界一だともてはやし、特権を与えて、贅沢を許してきた。もとより女王は絵の知識も興味もない。微細な優劣などわかるわけもなく、世界一という言葉に満足していただけだった。
「たとへ画家が世界一じゃないとしても、キャサリンが醜いことはこの目で確かめましたのよ」
染吉が浮世絵師として成功しなかった要因として、他人からの指摘を聞き入れることが出来ない性格があった。批判されると、逆に反発して固執してしまうのだ。女王がこの世界の基準でキャサリンを醜いと認定しているのはわかっていた。だけど、自分の美意識を否定されたことで、キャサリンの美しさに固執した。
「あんたの言う美しさって何?」
「それは私のような二重瞼の大きな瞳で鼻筋が通っている」
「それ古いから。時代が変わる度に、美意識も変わっていくから」
「でも、さすがにキャサリンは」
「じゃあ、聞くけど、王子様の白タイツ。あれどう思う?」
「いや、あれは・・・ちょっと」
「ダサいでしょ。顔がいい奴が履いてるほど冷めてくるよね。でも、あんたが小さい頃はどうだった? 正直に話してごらん」
「・・・カッコいいと思ってましたわ」
「でしょ。そういうことだから」
納得は出来ないけれど、ぐうの音も出ない。そもそも魔法の鏡は真実を告げるという触れ込みで手に入れたお宝。実際にこれまで何度もその力に助けられてきた。自分の美的感覚が時代とズレてきたのかもしれない。女王の心が揺れ始めていた。
もし、染吉が正しいのなら、迷っている暇はない。世界一美しい女性の座を奪い返さなければ、女王としての立場を失うことになるのだから。
最初のコメントを投稿しよう!