転生白雪姫

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 女王が城へ戻ると懐かしい馬車が止まっていた。宰政のマルクスが帰国したのだ。外国への公務から1年ぶりの帰郷。女王は絶望の顔が喜びに変わる。いないとわかっている馬車に駆け寄り、扉を開けずにはいられなかった。  マルクスは女王の養父。奴隷の頃に出会い、美しさを見出し、ここまでを導いてくれた男。  すぐさま老婆から女王の姿に戻り、挨拶へ向かうためにお城へ走る。政務室へ繋がる階段を駆け上がり、ノックもせずに扉を開けた。期待していた歓迎の挨拶は、罵声と共に頬を激しく叩かれた。  マルクスは白雪姫への扱いに激怒していた。処罰は後日改めて行うと言われ、用意していた言い訳も許されず、自室にて反省していろ突き出された。  今日は祝賀会。何を祝っているかといえば、白雪姫と王子様の婚姻。  王子様は隣国の出身で大国である。これまでマルクスは敵国として、領土を奪うために戦争を画策していた。その方針を転換させたのだ。狙いは単純。白雪姫に子供生ませて王座を奪うか、王子を殺して女王のと同じように、白雪姫に王座に付かせ、影からマルクスが国を動かすつもりだった。  自室へ引き返した女王は鏡の前に立ち、世界一美しい女性を尋ねた。 「キャサリン」  変わらない答え。女王は質問を少し変えた。 「マルクスにとって世界一美しい女性は?」 「白雪姫」  女王は籠に乗った毒リンゴを掴み取った。白雪姫に祝いの品として贈るため。  豪華絢爛な装飾を施されたお城。きらびやかなドレスを着飾った白雪姫は疑いもせず喜んで女王からの贈り物を食べた。  女王がそれを見て抱いた感情は苛立ち。純粋なところが勘に障るのだ。  瞬く間に眠りにつく白雪姫。けれど、王子様はそばにいる。愛する者の口づけによって、あっけなく目を覚ます。  愚かな行為だと激昂するマルクス。何をもってこんな無益な行為をしたのかと、女王へ床にひれ伏すことを強要し、釈明を命じた。  女王はトカゲのように床を這いつくばり、乱れた髪の毛が口に入い込んだまま叫んだ。 「白雪姫は汚らわしい奴隷の出身ですのよ。政略結婚に利用するために、マルクスに育てられた泥人形。歳を取ればあんたの美しさなんて、剥がれ落ちてしまうのよ」  女王の答えは、マルクスが求めた問いかけとは解離していた。自分の立場も考えず、ただ白雪姫を貶めることしか考えてない愚かな叫び。  女王は白雪姫の若さと美しさを気が狂うほど妬んでいた。その根幹はマルクスの関心を奪われたことにあった。女王はマルクスを愛していた。 「あなたを愛しています」  女王は床に転がる毒リンゴを手に取った。ひとかじりすると眠りにつく。それは永遠の眠り。マルクスは女王の命をかけた告白に応えてはくれなかったのだ。                おしまい
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