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プロローグ
会社を出た頃には、綾子の身体は疲弊しきっていた。彼女は、朝早くから出勤して、一日中パソコンに張り付いて働き、夜になったら帰宅するという毎日に飽き飽きしていた。特に勤務時間が長いわけではないが、同じ日常の繰り返しというのは、想像以上に退屈なのだ。
「明日も仕事か……」
そう愚痴を漏らすと、今日も綾子は、とっくに過ぎ去った日曜日を恋しく思いながら、とぼとぼと帰路に就く。
駅の改札を通過すると、二番線のホームへと繋がる階段を下りる。この時間だと、仕事帰りの乗客は少なくない。
ちょうど、電車の到着を知らせるアナウンスが流れた。綾子は少し早足になって、階段を駆け下りた。
ところが、最後の一段に差し掛かったとき、綾子は思わず転びそうになった。すれ違いに階段を上っていた女の人の足を踏んでしまったのだ。
だが、そんなことに構っている暇はない。発車直前のベルに急かされるように、背後からの視線も気にせず、綾子は一番後ろの車両に乗り込んだ。
今日は仕事を片付けるのに時間が掛かり、会社を出る時刻が少し遅くなったのだ。綾子は久々の運動に少し息を荒くしながら、壁にもたれかかった。
誰かの足を踏んだ感覚は、まだ右足の裏に残っていた。
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