フリップゲーム

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「ごめんなさい……」  長い長い沈黙の後、私が言ったひとこと。気づけば指が震えている。あと、涙が頬を伝ってゆく。  夫が出したフリップには、〈男と浮気したところ〉と書かれていた。他のフリップよりも丁寧に書かれたその文字が、夫の覚悟を思わせた。心臓がおもちゃのように暴れる。握りつぶされそうで、むしり取られそうで。ただ黙るしかできなかった。 「──俺も、お前のスマホ、見たんだ」 「そうなんだ……」 「正直、めちゃくちゃショックだった。落ち込んだ。悲しかった。ふざけんなって思った。なんでだよって思った!」  キズを負った日のことが鮮明に思い出されたのか、夫は徐々に声を荒げ、手にしたフリップを壁に投げつけた。そして、泣いた。 「あの、あれは、ちょっとした──」 「今日は、言い訳する日じゃないんだろ!」  夫婦を続けてみて思った。相手のことを嫌いになる最初のきっかけは、すごく些細なものだ。でも、相手がきっかけを作ったんだからこっちだって、という気持ちが芽生える。相手もきっと同じ。だから、些細だったきっかけはどんどん膨れ上がり、最終的には修復不可能ところまで肥大化してしまう。  私が他の男と寝たのだって、きっかけは夫への不満だった気がする。それがいつしか──。 「ほんとに、ごめんなさい……」 「もういいよ。どうせ俺たち、もう終わっちゃうんだし」  陽気なテンションでスタートしたこのフリップゲーム。夫が放った爆弾、いや、私の大罪によって陰鬱なムードと化した。
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