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「営業部の女とコソコソ会ったりしてるでしょ!」
夫の腹にフリップを押し付けた。苦笑いする夫。その顔を見ていると余計に腹が立ち、さらに強く押し込んだ。
「別に、ご飯くらい行ったっていいだろ?」
「何度かあなたのスマートフォンをチェックさせてもらいました」
「はぁ!?」
いつも明るくて優しいという、私が好きだった夫の魅力が、まさか他の女にも向けられていたなんて。
「好きだの、かわいいだの、歯が浮くような言葉の数々。結婚してるくせに、よくあんなことが言えるね。相手の女も女だよ」
「まぁ、コミュニケーションっていうか何っていうか」
「私と最初に会ったときと同じだよね。そうやって女の気持ちを取り込んでいこうとしてるんでしょ! 最低の男ッ!」
ますます腹が立ってきた。感情と声を荒げる自分に気づき、惨めにもなった。情けない。
「そこまで言うならさぁ──」
声のトーンが一気に変わった。もっさりとした動作で夫が次のフリップをめくる。神妙な彼の面持ちが、私の体温がみるみる下げ、次に何が起こるかを予感させた。
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