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せっかくだし残りのフリップも全部見せ合おうということになり、トランプを配るようにお互いの嫌いなところを発表していった。
イビキがうるさい。ガミガミ小言が多い。服を脱いだら脱ぎっぱなし。意味なく機嫌が悪いときがある。頼りがいがない。性格がおばさんっぽくなってきた。髪型が嫌い。化粧が濃い。口が臭い。香水が臭い。
私がしてしまった過ちに比べれば、どれもが可愛らしく思えた。ほんとに些細なことばかり。その場で言えばいいことを、溜め込んだ結果だ。
お互いの提案で、最後の一枚は同時に出そうということに。私も夫も、最後のフリップに手をかける。
掛け声とともに、フリップを出した。
『好きって言ってくれないところ』
奇跡が起きたと思った。まるで示し合わせたかのように、一言一句同じだった。夫と顔を見合わせる。目を丸くし、口は半開き。そんな夫の表情が一瞬にして凛々しさを帯びた。
「なぁ、俺たちやり直さないか?」
「え? でも──」
「浮気のことは仕方がない。ほんとはめちゃくちゃイヤだけど。もう絶対にしないって誓って欲しい。それだけ約束して欲しい」
言い終えると夫の表情が柔らかくなった。そして、両方の拳を握りしめると、満面の笑みを浮かべた。まるであの頃のように。
「すべて許そう!」
夫の顔をじっと見つめる。そういえば、中学時代と何も変わっていない。いつまでもあの日のまま。私が憧れを抱いたあの日のまま。変わったのは私のほうだったのかも。
散らかったフリップを二人並んで拾う。文字が書かれていない面を上にして重ねていく。真っ白なフリップたち。夫の手を止め、呟いてみた。
「お互いの嫌いな理由が白紙になっていくね」
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