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「好きな人出来たから」
別れよう。そう言って去っていったあの人。
江原藤司。29歳。3つ年上。
私の彼氏、だった人。
藤司は暖かい陽だまりみたいな人だった。
優しくて、ちょっとのんびり屋で、穏やかで、少々捻た性格の私も、彼の前ではフワフワと柔らかな気持ちになれた。素直に甘えられた。本当に私には勿体ないくらい素敵な人。
だからこそ不安も大きかった。性格はもちろんだが、藤司は見目もいいのだ。どこに行こうと視線を集める。こんな面倒な女よりも、彼に釣り合う可愛い女の子は沢山いる。
付き合い始めはよく友人に相談していた。藤司を紹介してくれた友人だ。
彼女曰く、そこそこ美人で仕事も早く、そこそこ男の理想もプライドも高そうに見えるクセして、変に気弱で意地っ張りな、とてつもなく面倒臭いヤツ、らしい。私は。
酷い言い草である。仮にも君は友人でしょ。そこそこ美人ってなんだ。褒めてるのか貶してるのか?無論、後者に違いない。さらに、そこそこ男の理想とプライドが高そうときた。見た目で判断するなと切に訴えてやりたい。しかも、そこそこ。そんなに中途半端なやつに見えるのか私は。失礼なヤツめ。
ただ後半はあながち間違いではない。きちんと私という人間と向き合って過ごしてきてくれた友人だからこそ言える言葉。本当の私は多分心が弱いのだ。常に気を張って強がらないと満足に人付き合いが出来ないくらい臆病者なのだ。
「ま、そんなとこがアンタの可愛いとこよね」散々私の外見と中身のギャップについて語った後(ほぼほぼ悪口だった)、そう言って友人は笑った。
アンタが唯一甘えられる人でしょ。あっちは甘やかすのが好き。「律花と江原くん、ちゃんとお似合いだよ」だから自信持ちな?
そんなふうに朗らかに言ってのける友人が眩しい。本当にカッコいい。見た目はザ・女の子って感じなのに。外見詐欺は君の方だよ。
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