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お侍さんの傍らに転がっていた刀を取り上げて、『私』はゆらりと立ち上がった。
静かに鞘から白刃を引き抜いて、男たちに向き直る。
男たちは何も言わない。
ただただ穢らわしい物でも見るかのような、冷たい眼差しを向けてくるばかりだ。
だが、それで良かった。下手に恐怖の叫びの一つでも上げられたら、この男たちを人であると認識してしまう。
違うのだ。この男たちは人でなしなのだから、殺されて然るべき外道なのだから。
「消えろよ、お前たちは」
鮮血が舞う。
月光に照らされ、刃が煌めく。高々と掲げられた刀身は紅に染まっており、斬られた男は驚愕に顔を歪めながら崩れ落ちた。
それは僅か一瞬の出来事であり、その場に居た者ですら何が起きたのか理解できなかっただろう。
『私』は断じて、刀の扱い方など知らぬ。
当然生まれてから一度も武器など触ったこともないし、刃物でさえ精々が包丁を握ったことがあるくらいだ。
だが、それでも事実として男は斬られーーーーそして既に絶命している。
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