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憧れだった人物が、自分を助けるために颯爽と現れる。つまらない日常に嫌気が差していた私が、今まさに求めていた非日常に直面しているのだ。そこに更に夢を求めてしまうのは、当然のことであり――――。
「いいや、知らんね」
裏切られるのも、当然である。
あっけらかんと答える烏を、私は呆然と見つめる。私は半ば、烏がこの掛け軸の”お侍さん”であると確信していた。その答えに、落胆しなかったと言えば嘘になる。けれど同時に、そんな上手い話があるわけがないとも思っていたから、その胸の内は存外冷静だった。
「でも、なら……ここに描かれているのはいったい」
「ああ、たしかに俺によく似ている。それは間違いないことだ。けどな、やっぱりこいつは別人さ。さっきも言ったことだが――――俺はもう、昔のことなんか全部捨てちまった。見てみろよ、ここに描かれている男の顔」
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