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「枕の高さが合わないの」 三十分並んでようやく口にしたパンケーキは、評判ほどの味ではなかった。 時間を掛けただけの対価が得られなかったからなのか、友人の口からパンケーキの感想の代わりに出たのは、付き合っていた彼氏との別れた理由だった。 「そんなことで別れるなら初めから付き合わなければいいのに」 彼女に倣い、私もパンケーキの味には触れず話を合わせる。 彼女が求めているものはきっと、パンケーキの味などではなくて、代官山という場所と有名店というブランドを着飾った自分自身だ。 私も彼女ほどではないにしても、たいして美味しくもないパンケーキの写真を撮り「美味しかった」と、誰に対してかわからない見栄をSNSに上げるくらいのことはしてしまう。 「初めはさ、我慢してたんだよ。でもね一緒に寝たいのに、一緒だと眠れないの」  「それさ、彼氏さんになんて言って別れたの?」 「えっ? そんなの、好きじゃなくなったから別れようって」 「理由とか聞かれなかったの?」 「聞かれなかったよ。そっか、それで終わり」 「ふーん。じゃあもし聞かれてたらなんて答えるつもりだった?」 「んー、なんだろ。私服がダサいから、とかかな」  彼女は笑いながら、どうでもいいみたいに答える。 「それは傷つくよ」  私も精一杯笑った。苦笑いになってしまったことを彼女には気付かれなかったようだ。 「だって本当にダサかったんだもん。普段はスーツだから気になんなかったけど、休日のあいつとは出かけたくなかったよ」 彼女からすればパンケーキも恋人も自分をよく見せるためのアイテム程度にしか思っていないのだろう。 そんな風に割り切れたらどんなにいいだろうか、と私はまたあの人のことを考えてしまう。 偶然と呼ぶには出来すぎているし、運命と呼ぶにはあまりにも不謹慎な気がする。 そんな名前の付け難い出会いから始まったというのに、私たちの関係には、いともあっさりと名前が付いてしまうことが腹立たしい。
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